からかい半分から始まったジャンボ鶴田の「オー!」
今でも、日本人最強レスラーは誰か?
っていう話題が挙がります、プロレスマニアのあいだで。
「最強」の概念とか、そういうことからはじめなくてはいけないので、大変なのですが
プロレスオタクは、そんなこと微塵も大変なんて思いません。わたしも、そのひとり。
その時々で色んなレスラーの名前が挙がるのですが、必ず毎回出てくるのが
「ジャンボ鶴田」です。
無尽蔵なスタミナ
練習量も人並み以下なのに強い
キレたら間違いなく最強
実は女性にすごくモテた
ギターをもってコンサートやっちゃう
とにかく、ジャンボ鶴田を語らせたら、みんな言いたいことが次から次へと出てきます。
マスカラスあたりとやってた時は、最強とかそんなに言われてなかったし
ジャンボのファイトスタイルが、そのー
余裕がありすぎに見えて、プロレスファンに熱狂的な鶴田信者っていなかったんです。
感情移入しづらいレスラーでした。
試合終盤に、客席に向かって
「んおー」みたいなアッピールするんです。
「次に得意技出すぞ」とか「反撃するぞ」みたいな感じで。
あ、違うな、ジャンピングニーを見舞ったあとかな。とにかく必ず、オーってやるんです。
その「ンおぉー」が無感情というか、シゴトとして、おー、って叫んでるだけで
猪木のナックルパートの前に見せる、歌舞伎役者の「見得をきる」のとは正反対で、沸かないんです、あまり。猪木の「見得」は沸くんですが。
そこが新日本と全日本の違いとも言えるのですけれど。
とにかくジャンボ鶴田が「おー」って叫んでも、「ああ、そうですか」みたいな反応をするか、シカトするしかなかったんです、当時は。
ところが。
ある日の全日本プロレスの試合で、客席の一部のファンがジャンボの試合中
ちょっと茶化し気味に
「おー」ってやってみたんです、ジャンボがそうするように、腕をあげながら。
ハッキリ言ってものまねです。試合中にそのレスラーのモノマネをするんです、それもジャンボに向かって。
今までそんなことをするファンはいなかったので、まわりのファンも最初はとまどいました。でも、そのファンは、茶化し的なマネをやめません。
周囲のファンも少しずつ面白くなってきてしまって、笑いが起こりました。ジャンボは気づいていたと思いますが、気づかないような顔で試合を続けてました。
やがて、お決まりの「んおぉー」の場面がやって来ます。試合のフィニッシュが近いとわかります。
ジャンボ鶴田はいつものように
「おぉぉぉー」って言いました。
すると、いつもは、静かな客席が、ものすぐく沸いたのです。
単なるオーなのに、この日のオーは待ちに待ったジャンボの「オー」でした。
もうその「オー」で拍手喝采です。
それから、何年後かなあ。
ジャンボ鶴田最強説、ジャンボ余裕で最強説を誰もが語るようになってまして
ジャンボのタイツも黒に変わって
入場テーマも変わって
ジャンボ鶴田自身のファイトスタイルも
ふつうバージョン
余裕バージョン
流血バージョン
けいれんバージョン
怒るときもあるバージョン
たまにキレてみせるバージョン
とか広がっていたころの、ジャンボ鶴田の
「オー!」
で、茶化すような笑いは皆無になりました。
全日本最強で、もしかしたら日本人最強で
もしかしたら世界最強かもしれないジャンボ鶴田に対し、尊敬と誇りをもった
「オー!」に変わっていたのです。
いちばんの思い出の、ジャンボのオーは
コーナーポストに乗って、四方のファンと
「オー!」の大合唱。
ジャンボ鶴田、忘れません。
ジャムボ鶴犬